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藤岡市の西端、埼玉県との県境にある鬼石町(おにしまち)。
利根川の支流・三波川が流れる自然豊かなまちで、古くから絹産業と宿場文化で栄え、いまもどこか懐かしい町並みが残る。
「三波石とともに名高い冬桜の里」としても知られ、季節ごとに訪れる人の心を癒してくれる地域だ。
そんな鬼石に、旅人やアーティスト、そして地元の人たちが自然に集う場所がある。
それが今回紹介する「鬼石のゲストハウス さんと宿」 だ。
運営するのは、伊勢崎出身の岩本 哲さん通称:サントスさん(以下サントスさん)。
東京・品川でのゲストハウス修行を経て、この町にたどり着いた。



■ 鬼石で始めた理由
群馬県藤岡市の山あいにある町・鬼石。
この地でゲストハウス「さんと宿」を営むサントスさんが、鬼石と出会ったのは偶然からだった。
もともと東京・品川のゲストハウスで修行をしていたサントスさん。
そこで町づくりに携わる方と出会い、その方が「品川と鬼石の二拠点生活をしている」と聞いたのが始まりだった。
「僕が群馬出身だと話したら、その方が“鬼石は面白いところだから一度来てみなよ”と言ってくれて。
それが初めて鬼石を知るきっかけでした。」
初めて訪れた鬼石では、祭りの熱気やアーティスト・イン・レジデンスの活動、海外から訪れる人々の存在に驚かされたという。
「正直、伊勢崎出身の自分は藤岡のこともほとんど知らなかった。
でも来てみたら、すごく面白い場所で、すぐに惹かれました。」



■ 世界中から人が集まる宿に
宿のコンセプトには、ニュージーランドで過ごした1年間の経験も大きく影響している。
「ニュージーランドでゲストハウス文化に触れて、“いつか地元・群馬でやりたい”という思いを持ったんです。」
品川で修行していた頃から「群馬に宿を作るから来てね」と言い続けていたというサントスさん。
現在では、当時の仲間たちや、アーティスト関係者、県内外の旅行者が訪れるようになった。
「群馬を知らない人がこの宿をきっかけに訪れてくれるのがうれしいです。
来た人にはぜひ群馬を好きになってほしくて、一緒に上毛かるたをしたり、地元を案内したりもしています。」



■ 空き家を受け継ぐということ
「さんと宿」は、築約50年の空き家を改装して誕生した。
「大家さんが一級建築士の方で、本当に立派な家なんです。玄関を入ると吹き抜けがあって、
“おばあちゃんの家”のような懐かしさと温かさがあります。」
空き家を活用するうえで最も大切にしているのは、「持ち主の思いを引き継ぐこと」だという。
「大家さんにはこの家でのたくさんの思い出がある。
だから、丁寧に扱って、貸して良かったと思ってもらえるようにしたい。
僕の活動を見て、ほかの空き家オーナーさんにも“貸してみようかな”と思ってもらえたらうれしいですね。」



■ 義理と人情の町・鬼石
鬼石の人々と関わる中で感じたのは、「地元に似た温かさ」だった。
「この家を直す時も、本当に多くの人が助けてくれました。誰かが手伝ってると聞けば“何やってんだ”って集まってくる。
そういう義理と人情がすごくある町です。」
かつて鬼石は宿場町として栄え、外からの人を受け入れてきた土地でもある。
「宿場町のDNAというか、そういう“人を迎える気質”が今も残ってる気がします。」



■ 群馬を好きになってもらう場所へ
最後に、さんと宿さんはこう語る。
「僕自身、群馬に育ててもらったと思っています。この宿を通して、群馬を好きになってくれる人が増えたらうれしいです。
藤岡の鬼石だけじゃなくて、群馬にはそれぞれの地域に魅力がある。
そういう地域をつなぐ“架け橋”のような宿になれたらと思っています。」



■ 編集後記
取材を終えてまず感じたのは、「鬼石」という町の奥深さだ。
小さなまちでありながら、アーティストや移住者が集い、古くからの住民が温かく支える。
その中にある「さんと宿」は、まさに“人と人をつなぐハブ”のような存在だった。
サントスさんの口から自然と出る「群馬が好き」という言葉。
その純粋な思いが、宿の空気そのものをやさしく包み込んでいるように感じた。
旅の目的地としてではなく、“人に会いに行く旅”がここにはある。
鬼石というまちの魅力を知る入口として、「鬼石のゲストハウスさんと宿」はこれからも多くの出会いを紡いでいくに違いない。
鬼石のゲストハウスさんと宿(https://024santos.com)


※取材・文:情報ぐんま編集部