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誰かの作品が、誰かの宝物に ― インクルーシブなアートプロダクトの力

&ART (5)

アートは、誰のものだろう。

群馬県藤岡市にある「Art mix(あーとみっくす)」は、子どもたちの自由な表現の場であると同時に、年齢や障がいの有無を超えて、誰もがアーティストとして輝ける“インクルーシブなものづくり”の発信地でもある。
教室を主宰する小森さおりさんは、美術と家庭科という二つの教員資格を活かし、作品づくりを生活へとつなげる独自の教育を実践。そして「&ART」プロジェクトでは、障がいのあるアーティストの原画を手ぬぐいなどのプロダクトへと昇華し、多様な才能に光を当てている。
「さあ、あなたにもアートを。」
その合言葉のもと、小さな教室から世界へ。アートがもつ“包み込む力”を信じて、挑戦を続けている。

1. 教室・アート活動について

Q. この教室を始めたきっかけは何ですか?

教員として長年子どもたちと関わってきた中で、「自由に表現できる場所」がもっと必要だと感じ、この教室を立ち上げました。子どもたちの内にある想いや世界観を大切にしながら、のびのびと創作できる場を目指しています。また、私が家庭科と美術の教員免許を持っているので、家庭科と美術が融合した唯一無二の教室をしたいと思いました。

Q. どんな子どもたちが通っていますか?

年長さんから中学生まで、個性豊かな子たちが通ってくれています。絵を描くのが好きな子、工作が好きな子、人と違う感性を持った子…本当に多様です。

Q. 教室ではどんな作品を作っていますか?

絵画はもちろん、立体や工作、時にはデザインや現代アートのようなものまで。「正解」を決めず、自分らしい表現を尊重しています。

Q. 特に人気のある制作内容は何ですか?

毎年1月の最初のレッスンで「描き初め」と題して、画用紙に絵の具を飛ばして描くドリッピングをするのですが、家でも学校でも絶対にできないことなので、毎回大盛り上がりです。手形や足形をしてみたり。親御さんに事前に連絡して汚れるのを覚悟してもらっているので、子どもたちも夢中になってやります。

2. 「&ART」について

Q. 「&ART」という活動はどういうものですか?

多様なアーティストを社会につなげる取り組みです。障がいの有無、年齢、経歴問わず、等しく素晴らしいアートとして紹介し、商品化や展示販売を行っています。売上の一部はアーティストに還元することで、創作活動の応援をしています。


日本はアートを買う人が少ない国です。壁に飾るという習慣がなく、「アートは金銭的に余裕がある人が買うもの」や「そもそもよくわからない」という意見が多いです。なくても困りませんし。アート業界はお金がないと作品を出展できないし画材も高価です。

でも日本人は美術品が大好きです。モネ展やゴッホ展は長蛇の列、お寺のご開帳も大人気。お土産やグッズも買います。だったら、アートをグッズにしたらどうか、と提案することを考えました。しかし、今の時代、自分で簡単にネットでオリジナルグッズが作れる時代です。なので、ただグッズにしたのでは意味がなく、伝統工芸士さんや地域のクリエイターさんなど、私にしかできないコラボレーションを展開していきたいと考えています。
「さあ あなたにもアートを」をコンセプトワードにして、日常にもっとアートを取り入れてもらえるよう、活動を広げていきたいです。

Q. 障がいのある方の作品とは、どう出会ったのですか?

とあるマルシェでの出会いがきっかけです。県内で造園業をされている方が、植物の販売をされていて傍でアートも販売していました。そのアートに出会った瞬間、その色づかいとパワーに心を打たれました。そこからご自宅を訪問させていただき、作品の数々を見せていただいたのですが、どの作品も素晴らしく、「もっと多くの人にこの作品を届けたい」と思い、&ARTの活動が始まりました。

Q. どんなアーティストが参加していますか?

主に就労継続支援B型事業所に通っているアーティストさんです。ジャンルも表現方法も多様で、いずれも自分の世界を持っている方ばかりです。障がいのないアーティストさんもいます。

Q. 創作のサポートはどのようにされていますか?

事業所の職員さんやご家族と連携しながら、できるだけ自由な環境で創作できるよう配慮しています。例えば、障がいのある方は、「いついつまでにこんな絵を描いて欲しい」とお願いすることが難しいので、今出来上がっている作品の中から、この絵は手ぬぐいにいいのでは、この絵はカレンダーにいいのではと考えて商品開発をしています。

3. 商品化について

Q. アート作品を、どんな商品にしているのですか?

手ぬぐいやスカーフなど、日常の中でアートを感じられるアイテムを展開しています。今後は地域のクリエイターさんとコラボして、&ARTのアートをイメージしたアクセサリーやアロマ、ドライフラワーなども展開していく予定です。

Q. 手ぬぐいやストールなどの商品は、どこで作っていますか?

群馬の伝統工芸士、小山哲平さん(桐生てぬぐい)とコラボレーションをして商品を作っています。去年のファッションウィークで出会ったので、まだ1年も経っていませんが、私が持っていくアートをすごく信頼してくださっています。

Q. 商品にしたとき、作家さんの反応はどうでしたか?

「自分の作品が手ぬぐいになるなんて」と驚きつつも、本当に嬉しそうでした。家族や事業所の方々も喜んでくださいました。

Q. 収益の分配はどのようにされていますか?

商品価格の中から、粗利の約20%をデザイン料として作家に還元する仕組みです。売上が作家のモチベーションや継続につながるよう工夫しています。

4. やりがいやエピソード

Q. 印象に残っている作家さんやエピソードはありますか?

初めての販売が2025年1月、高崎髙島屋さんでの「ぐんま展」だったのですが、アーティストさんを応援してくださっている方々が続々と買いにきてくださって、大判ストール15枚が完売しました。それにはびっくりしました。

Q. 作品づくりの中で感動したことはありますか?

桐生てぬぐいさんからサンプルが上がってきた時に、アーティストの作品の魂がそのまま入っている商品が出来上がったと感動しました。

5. 地域とのつながり

Q. 地域の方との関わりや反応はいかがですか?

展示会やポップアップで地元の方に直接作品を見ていただくと、「原画の力がすごい。それが手ぬぐいになったなんて素敵!」と感動の声をいただきます。あたたかい反応が嬉しいです。

Q. 地元イベントや商店などとのコラボはありますか?

8月13日〜19日 高崎髙島屋ポップアップ(高崎商科大学とのコラボ企画・商大生がインターンで&ARTの商品を売ってくださいます)
9月13日〜10月13日 中之条ビエンナーレ特設公式ショップ
9月20日〜21日 高崎OPAポップアップ
(企画進行中)10月から毎月か隔月に1度 藤岡市のスイーツカフェ・ルエル 2Fギャラリーで、&ARTの商品やアーティストの原画を販売したいと考えています。

6. 今後の展開

Q. これからやってみたいことや目標を教えてください。

全国、そして海外へもこのアートを届けたいと思っています。

Q. 海外展開や他の地域との連携の予定はありますか?

フランスなどアートへの理解が深い国々との連携を視野に入れています。

===世 界 中 に A R T を===


株式会社 Art mix 
代表取締役社長 兼 CAO
 小森さおり

375-0024 群馬県藤岡市藤岡332番地1

(あーとみっくす絵画造形教室内)
TEL: 08065075228
MAIL: k.saori@artmixfujioka.com
HP:https://www.artmixfujioka.com/

【編集後記】
作品に込められた、言葉にならない思い。

色と形で語るアーティストたちの声が、手ぬぐいやストールになって日常に溶け込んでいく。「Art mix」の取り組みは、アートの新たな価値を問い直し、誰もが主役になれる社会の輪郭を描いている。
作品を買うことは、誰かの表現を認めること。
商品を使うことは、その感性と暮らしを共にすること。
インクルーシブな社会は、こうした“アートの循環”から始まるのかもしれない。

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