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群馬県長野原町・川原湯温泉で、毎年厳冬の早朝に行われるのが「湯かけ祭り」だ。まだ夜の名残が残る時間帯、湯かけ太鼓の合図とともに祭りは始まる。
神事を終えると、紅白に分かれた勇み姿の若者たちが一斉に湯を汲み、互いに掛け合う。あたり一面は立ちのぼる湯煙に包まれ、凍てつく空気の中に、参加者の熱気と掛け声が響き渡る。その光景は、見る者の体感温度まで引き上げるかのような迫力だ。
この祭りは、川原湯温泉ならではの歴史と信仰が色濃く残る、まさに“奇祭”と呼ぶにふさわしい行事である。
湯かけ祭りの由来
湯かけ祭りの起源は、源頼朝がこの地で温泉を発見してから、およそ400年後に起きた出来事にさかのぼる。
ある日、突然温泉が湧き出なくなってしまった。生活の要でもある温泉を失い、村人たちは困り果てていたという。そんな中、温泉跡の匂いをかいだ村人のひとりが、「まるでニワトリの卵を茹でたような匂いがする」と気づいた。
そこで村人たちは、ニワトリを生け贄として神に祈りを捧げた。すると、再び温泉が湧き出したという。喜びに沸いた村人たちは「お湯が湧いた、お湯が湧いた」と声を上げ、やがてそれは「お祝いだ、お祝いだ」という掛け声に変わり、互いに湯を掛け合うようになった。
この出来事が、厳冬の朝に賑やかに行われる「湯かけ祭り」のはじまりと伝えられている。
変わりゆく風景、変わらぬ想い
川原湯温泉の象徴でもあった共同浴場「王湯」は、八ッ場ダム建設に伴い、平成24年(2012年)7月に高台へと移転した。町の風景は大きく変わったが、湯かけ祭りに込められた“湯への感謝”と“湧き続けることへの祈り”は、今も変わらず受け継がれている。
凍える寒さの中で湯を掛け合うという一見豪快な祭りの裏側には、温泉と共に生きてきた人々の切実な願いと、自然への畏敬の念が息づいている。
湯煙の向こうにある、川原湯の記憶
観光として訪れる人にとっては迫力ある祭りの一場面であり、地元の人々にとっては先祖から続く祈りのかたち。
湯煙に包まれた早朝の川原湯温泉で行われる湯かけ祭りは、この土地の歴史と人の営みを、今に伝える生きた文化財と言えるだろう。