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群馬からアートの新たな息吹を。 今回『情報ぐんま』が取材したのは、異なる美術大学で専門も学年も異なる5人の若き表現者たちによる合同個展『MUSE』です。
「ミューズ(女神)」という、古くから芸術家を突き動かしてきた普遍的なテーマに対し、彼らが提示したのは神格化された存在ではなく、極めてパーソナルな「自己」や「関係性」、そして「感情」の断片でした。
キュレーションを担う小山明日翔さんをはじめ、日本画、彫刻、染織と、それぞれのフィールドで己の表現を研ぎ澄ます学生たち。大学という枠組みを越え、互いの差異を鏡としながら作り上げた空間には、現代を生きる等身大の葛藤と、未来への確かな眼差しが溢れています。
彼らが何を想い、なぜ今、この場所で表現するのか。展示に込められたメッセージと、創作の舞台裏にある熱い想いをお届けします。
①小山 明日翔 (キュレーション)
②東京藝術大学 美術学部 先端芸術表現科 1年
③@asuk_art



①関根 瑞姫 (企画)
②金沢美術工芸大学 美術工芸学部 美術科 日本画専攻 2年
③@m__sekine



①神保 雄平
②東京造形大学 美術学科 彫刻専攻領域 3年
③@yuhei_jimbo_



①茶野 聖来
②東京藝術大学 美術学部 工芸科 染織専攻 3年
③@chanodayo



①原 琴音
②多摩美術大学 彫刻学科 4年
③@katahara_itata



- 5人のアーティストに3つの質問
- 今回の展示テーマ『MUSE』に対し、ご自身の作品にはどのような解釈や想いを込めましたか?
小山:MUSEというテーマに対して、僕は自分自身の喜怒哀楽(感情)そのものだと思いました。そのため来場者にも心の内を開くような作品展開を目指しました。
バスボールを使った今作《おもい玉》は、鑑賞者が心引かれるバスボールを自分自身で選び、水槽のなかでそれを溶かすと中からメッセージが書かれた紙が出てきます。自分よりも先に訪れた鑑賞者のメッセージを受け取った後、今度は自分自身が次なる鑑賞者へメッセージを残します。どこの誰かも分からない、お互いの顔も知らない他者にだからこそ、打ち明けられる『おもい』があると私は感じてます。 僕の感情も、あなたの感情も、一人きりで行き先を見失いませんように。
関根:私にとってのミューズは自分自身です。自画像は見られる客体としての私を、見る主体としての私が見つめることで成立するものであり、それを描くことで自分や他者を知ることができます。わかりたいという気持ちと、わからないものの美しさに惹かれて制作しました。
神保:私にとって「MUSE」とは、出会う人や出来事によって常に変化し続けるものであり、特定の対象というよりも、その都度の関係や状態の中に立ち上がるものだと考えています。
一般的にミューズは創作の源となる存在として語られますが、私はそれを、生活の中で自然と生まれてくる配置や、意図せず現れる関係性の中に見出しています。
今回の作品では、景色の中に差し込まれる色彩や、本棚のように要素が並置されるフォーマットに着目しました。 それらを空間の中に「置く」ことで、普段は意識されにくい関係性や、見過ごされているつながりが浮かび上がる状況をつくろうとしています。
本作は、ひとつのイメージを提示するというよりも、環境や状況によって変化し続ける「状態」としてのミューズを扱ったものです。
茶野:制作する時に一番身近にいる存在は自分です。そんな自分を多角的な視野で捉えようと試みました。
原:展示タイトルが「MUSE」ということで、最初は自分にとっての女神を考えたのですがあまり制作する上で神々しく自分を突き動かすものがあまりないなと思いました。概念的な感情みたいなものはあるんですけど…。
頭を抱えてる時にだったら自分が女神みたいな存在になればいいのではと思い今回出展してる作品ができあがりました。
タイトルの「ご自愛」は卒業や新生活を迎える人たちへのメッセージです。冷たく感じられる今の社会の中で無理をし続ければいつか壊れてしまうかもしれません。それでも日々を生きる中で雪解けのようなあたたかい未来が訪れると信じています。そんな想いを込めて、私(=女神のような存在)からみなさんに向けての励ましとして制作しました。
- 異なる美術大学で学ぶ5人が集まったこのグループ展を通じて、自身の表現スタイルや考え方に新たな気づきや変化はありましたか?
小山:メンバーの作品を見て、改めて個々の表現の立ち上げ方や、専門的な技法の奥深さを知り、幼い頃に感じていた絵を描く楽しさに似た感覚を覚えました。グループ展という場は、一人じゃないので、それだけで「いいな」と思います。
関根:作品や対話を通じて、自分とは異なる考え方や表現方法に触れて刺激を受けました。また、他人との差異によって自分の思考や感性、それらの譲れない部分も見えてきたように感じています。
神保:異なる環境で制作しているメンバーと展示を行う中で、作品と鑑賞者との関係のつくり方や、作品における言葉の使い方に強く刺激を受けました。
特に、それぞれがどのように鑑賞者との距離や関係性を設計しているのか、また言葉をどのように補助的に、あるいは積極的に用いているのかという点は、自分の中で制作を見直すきっかけになりました。 これまで私は、どちらかというと空間や配置そのものによって関係性が立ち上がることを重視していましたが、今回の経験を通して、それらをどのように整理し、他者にひらいていくかという視点にも意識が向くようになりました。 大きく方向が変わったというよりも、他者の方法を知ったことで、今後さらに探究していきたい領域が広がったと感じています。
茶野:普段学んでいる世界が全く違うので、ただの雑談でも新しい発見に繋がることが多いです。
原:あまり大学外の人間と集まって展示をする機会がないのでこういった交流展をするたびにその人が通ってる大学の色を感じます。美大というのはたくさん存在していてその中での教えというのも星の数ほどあると思うのです。美術って幅が狭いように思われそうですが、各々が通ってる場所や影響などのおかげでいろんな解釈ができて枝分かれのように表現が広がり、美術の可能性というのはまだたくさんあるのだなと感動しました。こういったグループ展に参加させてもらえるおかげで美術の可能性を信じて自分も色んなことに挑戦したいなと前向きな気持ちを抱けました。
- 大学卒業後、アーティストとしてどのようなビジョンを描いていますか?また、表現の道を志す同世代へのメッセージをお願いします。
小山:卒業後は30歳前後で家庭を持ち、我が子と遊んだりお出かけしつつ、アーティストとしても活動できるくらい、色んな面で余裕があり、他者も自分のことも大切にできる人でありたいです。同世代にメッセージを残すなら「どうしたって、何かしらで後悔はするのだから、全部やってしまえばいい」ですかね。もしかしたら人生、今日が最後かもしれませんし。
関根:卒業後も制作を続けていきます。どの場所でも変わらず誠実に絵と向き合っていくつもりですし、そういう同世代の人がいたら嬉しいです。
神保:卒業後は、彫刻という枠に限らず、空間の中で生まれる関係や状態に興味を持ちながら制作を続けていきたいと考えています。
物としての作品と、それが置かれることで生まれる状況とのあいだを行き来しながら、ひとつに固定されないかたちで表現を探っていきたいと思っています。
また、制作だけでなく、人が関わることで自然と何かが生まれていくような場にも関心があります。
現時点では、制作の方法だけでなく、何を探究するのかという内容自体も定めすぎず、その時々で変化していくものとして向き合っていきたいと考えています。
同世代の表現を志す人に対しては、自分自身もまだ探究の途中にあるという感覚があり、何かを示すというよりも、その過程を楽しみながら続けていけたらと思っています。
茶野:熱中できるものを死ぬまで追い求めたいです。追い求めていきましょう。
原:卒業後は大学院の方に進むため、学部時代よりもより練度が高くてコンセプトや表現が研ぎ澄まされた作品を作りたいと考えております。博士という名に恥じないように、かといって肩の力を入れすぎずに今までやってきた表現方法をさらに研究して行きたいですね。遠い未来は語れませんが近いうちにどこかで個展をしたりアトリエを作ったりしたいなと……。同世代の子達が私の作品を見て、共感してくれて帰る時には少しでもスッキリしてるような作品を作る作家になりたいです。メッセージなんて送れる立場じゃないですけど、生き急がずにやりたいことをゆっくり精査して行った先に自分のやりたい表現やビジョンみたいなものが見えてくると思います!
【取材後記案】
「個」が混ざり合い、未来を形づくる場所。
取材を通じて強く感じたのは、5人の言葉の端々に宿る「誠実さ」でした。
同じテーマを掲げながらも、ある者は「バスボール」という遊び心を通じて他者との対話を試み、ある者は「自分自身」をミューズと定義して内面を深く見つめる。専門領域が違うからこそ、一見するとバラバラに見える表現の枝葉が、実は「表現し続けたい」という一本の太い幹でつながっている。その多様性こそが、今の美大生たちが持つリアルな熱量なのだと教えられた気がします。
特に印象的だったのは、彼らが「大学の外」という開かれた場所で他者と交わることで、自分の中の「譲れない部分」を再発見していたことです。閉じた制作環境から一歩踏み出し、観客や仲間と「状態」を共有する。そのプロセス自体が、彼らにとっての新たなミューズ(創造の源泉)になっているのかもしれません。
「どうしたって後悔するなら、全部やってしまえばいい」「熱中できるものを死ぬまで追い求めたい」——。 そんな力強い言葉を贈ってくれた彼らが、数年後、数十年後にどのような景色を描いているのか。群馬の地から、彼らのさらなる飛躍を心から応援し続けたいと思います。