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第39回高崎映画祭 授賞式 ― 映画の熱が街を震わせた日

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開演前の高揚感:チケットが繋ぐ「映画愛」のバトン
開場1時間前から、劇場の前には色とりどりの春の装いに身を包んだ人々が長い列を作りました。
手にしているのは、発売と同時に即完売となったプラチナチケット。
「この日だけは高崎が世界の中心になる気がする」と語る市民の言葉通り、ロビーに流れるのは、単なるイベント待ちの喧騒ではなく、これから始まる「再会」への期待感でした。

地元ファン同士が「あの作品は観た?」「今年の主演賞は納得だね」と語り合う姿は、シネマテークたかさきや各劇場で育まれてきた、この街ならではの風景。
劇場1階に展示された紅型染めのコサージュが、間もなく登壇するスターたちの胸元を飾る。その準備が整ったとき、ベルの音とともに高崎映画祭、39回目の幕が上がりました。

豪華な顔ぶれが揃った「映画の街・高崎」の一夜。地元ゆかりのアーティストも彩りを添えて。

令和8年3月22日、高崎芸術劇場にて「第39回高崎映画祭 授賞式」が開催されました。独自の視点で選定される「高崎映画祭」ならではの、温かさと熱量に包まれた式の模様をお伝えします。

【式次第】

  • 17:00 開会
  • 17:05 オープニング映像上映
  • 17:15 主催者挨拶:須藤 賢一(高崎映画祭委員長)
  • 17:17 来賓挨拶:富岡 賢治(高崎市長)
  • 17:19 海外ゲストご紹介
  • 17:24 受賞作品総集編上映
  • 17:38 受賞者入場/賞状・トロフィー授与
    • 賞状授与:志尾 睦子(高崎映画祭プロデューサー)
    • プレゼンター:須藤 賢一(委員長)、古川 雅子(副委員長)
  • 18:50 だるま贈呈、フォトセッション
  • 18:55 閉会

司会は俳優の岡田浩暉さんと、ラジオ高崎の田野内明美アナウンサーが務めました。

【受賞者・受賞作品一覧】(授賞順)

  1. 新進監督グランプリ:山元 環 監督(『この夏の星を見る』) ※松井俊之プロデューサーが代理来祭
  2. 新進監督グランプリ:甫木元 空 監督(『BAUS 映画から船出した映画館』)
  3. 最優秀新進俳優賞:黒崎 煌代(『見はらし世代』)
  4. 最優秀新進俳優賞:中野 有紗(『この夏の星を見る』)
  5. 最優秀助演俳優賞:酒向 芳(『花まんま』)
  6. 最優秀助演俳優賞:菅原 小春(『海辺へ行く道』)
  7. 最優秀主演俳優賞:渋川 清彦(『中山教頭の人生テスト』)
  8. 最優秀主演俳優賞:伊藤 沙莉(『風のマジム』)
  9. 最優秀監督賞:吉田 大八 監督(『敵』)
  10. 最優秀監督賞:豊田 利晃 監督(『次元を超える』)
  11. 最優秀作品賞:『ふつうの子ども』
    • 呉 美保 監督
    • 菅野 和佳奈 プロデューサー
    • 佐藤 幹也 プロデューサー
    • (登壇)嶋田 鉄太、瑠璃、味元 耀大

  • 授賞式を彩る「高崎の匠」たち
    高崎映画祭は、地域に根ざしたクリエイターたちの協力によって支えられています。本年も、受賞者に贈られる賞状やトロフィー、身につけるコサージュに職人の技が光りました。

山元 環 監督(『この夏の星を見る』)代理:松井 俊之プロデューサー

コロナ禍の若者たちの瑞々しい群像劇を描いた山元監督。代理登壇した松井プロデューサーは「多様性ある映画を映画館に送り出す重要性を感じて制作した。監督はすでに次回作の準備に入っている」と、さらなる飛躍を誓いました。


甫木元 空 監督(『BAUS 映画から船出した映画館』)
ゲスト登壇:斉藤 陽一郎 氏

今はなき吉祥寺の「バウスシアター」を巡る物語。甫木元監督は、亡き青山真治監督から引き継いだ企画への思いを語り、「無名の無数の人々が、映画館という場所で手をつなぐ姿を描きたかった。映画館の価値を改めて伝えたい」と真摯なメッセージを寄せました。


【俳優賞】実力派が語る「演技」と「誠実さ」
最優秀新進俳優賞:黒崎 煌代 氏(『見はらし世代』)、中野 有紗 氏(『この夏の星を見る』)
共に「自分にとって大切な、始まりの作品」と語る二人。中野氏は「これから出会う縁を大切に、自分なりの表現を追求したい」と瞳を輝かせました。

黒崎 煌代 氏(『見はらし世代』

「初めて役をいただいた思い入れのある作品。2人で深夜のカフェで語り合いながら作った。関わってくれた全ての方と、見てくれた方に感謝します。」


中野 有紗 氏(『この夏の星を見る』)

「この作品と出会い、チームの皆さんに支えられてこの場に立っています。これからも作品との縁を大切に、自分なりの表現を胸に頑張りたい。」


最優秀助演俳優賞:酒向 芳 氏(『花まんま』)

「正直は最善の策(Honesty is the best policy)」という言葉を胸に、嘘のない演技を求めてきたという酒向氏。「高崎の皆さんの映画愛に触れ、温かい気持ちになった」と感謝を述べました。


最優秀助演女優賞:菅原 小春 氏(『海辺へ行く道』)
ゲスト登壇:原田 琥之佑 氏

ダンサーとしても活躍する菅原氏。「言葉は難しいけれど、愛らしい。10年後にこの賞の意味が分かるよう、今はみんなで踊りたい」と感性豊かな挨拶で会場を沸かせました。


最優秀主演男優賞:渋川 清彦 氏(『中山教頭の人生テスト』)
「高崎は、気持ちで選んでくれる場所」ゲスト登壇:佐向 大 監督

地元・群馬が誇る俳優、渋川清彦氏の登壇は、この日一番の盛り上がりを見せました。
プレゼンターとして、元BOØWYの松井常松氏がサプライズ気味に登場すると、
渋川氏は驚きを隠せない様子で少年のように声を弾ませました。
「13歳の頃、初めてコピーバンドでコピーしたのがBOØWYだったんです。
その松井さんから、こうして賞状をいただけるなんて……。
いやあ、俺、すげえな!やっちゃったな、という気持ちです(笑)。
実は数年前からこの映画祭の司会もやらせてもらっていて、『最優秀主演男優賞は……』とあっち側(司会席)から
発表するシミュレーションは何度もしていたんです。でも、いざ現実になると本当に嬉しい。
一つ言っておきたいのは、高崎映画祭は忖度がないということ。
お金や政治じゃなく、運営の方々の『気持ち』で選んでくれている。そこがこの映画祭の最高に良いところです。
これからも高崎のために、映画界のために、恩返しをしていきたい。
皆さん、これからも手伝ってください。あっぱれ!」


最優秀主演女優賞:伊藤 沙莉 氏(『風のマジム』)
「亡き恩人に捧げる、感謝の笑顔」ゲスト登壇:芳賀 薫 監督

凛とした表情でステージ中央に立った伊藤沙莉氏。彼女の言葉には、作品への深い愛情と、今は亡き大切な人への祈りが込められていました。「今回の作品は、10年前からお世話になっているプロデューサーとの再会から始まりました。一人暮らしの物件を一緒に探してくれたり、敬語を教えてもらったり……そんな家族のような方々と作り上げた、本当に思い入れのある作品です。現場では、自分ができることなんてほとんどなくて、皆さんに『私を主人公(マリコ)にしてください』という気持ちで臨んでいました。そして何より……うちの事務所の先代の社長が、この作品の完成を誰よりも楽しみにしていたんです。現場が大好きで、情熱を持って支えてくれた方でしたが、完成の直前に亡くなってしまいました。でも、初号を観たとき、絶対に『ああ、良かったね』と言ってくれていると確信しました。今日は社長もどこかで見てくれているはず。社長、美味しいお酒を飲んでくださいね。私も後で、美味しいお酒を飲ませていただきます。本当にありがとうございました。」


【最優秀監督賞】ベテランが認める「高崎の眼」
 吉田 大八 監督(『敵』)

「これまで8本撮ってきたが、高崎映画祭とはご縁がないと勝手に拗ねていた(笑)」と会場を笑わせつつ、「審査理由を読み上げてもらい、これまでの作品も見てくれていたんだと感じて救われた。9本目での受賞を大切にしたい」と語りました。


豊田 利晃 監督(『次元を超える』)

20年ぶりの監督賞受賞。高崎映画祭の運営スタッフから贈られた地元の野菜や誕生日のギフトなど、丁寧な交流に触れ、「視点を変えることで世の中の見方が変わる、そんな映画をこれからも撮り続けたい」と、40回目への意欲を見せました。


【最優秀作品賞】未来へ繋ぐ『ふつうの子ども』
呉 美保 監督、スタッフ、キャスト一同

記念すべき39回目の作品賞を射止めたのは『ふつうの子ども』。呉監督は「師匠である大林宣彦監督が、この場所で見守ってくれているような気がする」と感極まった様子で語りました。
神野プロデューサーは「映画館に通う文化、映画を作る人を育ててくれる高崎映画祭。子供がテーマのこの作品がここで選ばれたことは大きな意味がある」と締めくくり、最後は子役の島田鉄太さん、瑠璃さん、味元耀大さんの弾けるような笑顔とともに、授賞式は幕を閉じました。


【編集後記】映画祭が教えてくれる「継続」と「継承」という魔法

39回目。言葉にするのは容易いですが、一つの映画祭を民間の力でここまで育て上げ、40年近く継続させることは、並大抵の情熱ではありません。

今回の授賞式で最も印象的だったのは、渋川清彦さんの「高崎は気持ちで選んでくれる」という言葉でした。大手プロモーションや政治的な意図ではなく、純粋に「いい映画を、この街で観たい」という運営側の「眼」と、それに応える観客の「耳」が、この映画祭を支える真の背骨なのだと再認識させられました。

特に、主演男優賞のプレゼンターとして高崎が生んだレジェンド・松井常松さんが登壇し、それを受けた渋川さんが少年のような笑顔を見せた瞬間。あの時、会場にいた誰もが「高崎に生まれて、あるいは高崎に居合わせて良かった」と感じたはずです。地元の文化と、スクリーンの中の世界が、一瞬の火花を散らして結びついたような、そんな奇跡のような時間でした。

また、主演女優賞を受賞した伊藤沙莉さんのスピーチも、私たちの胸を熱くさせました。作品の完成直前に亡くなられた所属事務所の社長への想い。「現場が大好きだった社長に、今日は美味しいお酒を飲んでほしい」と語る彼女の言葉からは、映画が単なる「商品」ではなく、多くの人々の人生や祈りが積み重なってできている「血の通った表現」であることを教えられました。

呉美保監督が師匠・大林宣彦監督の言葉を引用したように、映画の世界はこうして誰かの志を継ぎながら続いていく。その「継承」の場として、高崎という街が選ばれ続けていることは、市民の一人として誇らしい限りです。

新進俳優たちの初々しい決意、ベテラン監督の照れ隠しの感謝、そして亡き恩人への祈り。それらすべてを「だるま」のように力強く受け止める高崎映画祭。来年は節目の40回。映画を観る、作る、語る。その当たり前のような日常を、特別な「祭り」として祝える幸せを噛み締めながら、私たち「情報ぐんま」もまた、この街の熱量を記録し続けていきたいと思います。

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