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群馬住みます芸人・SDGs芸人:アンカンミンカン富所哲平さん インタビュー


群馬での活動の軸 ―「住みます芸人」としての14年
――まず、群馬での活動の軸について教えてください。
2011年5月から、群馬県に住みながら活動する「住みます芸人」として14年になります。
イベントの盛り上げや司会、メディア出演をはじめ、街づくり、教育や介護、医療の業界など、求められる場所があれば分野を問わず関わってきました。
僕の根っこにあるのは「芸人=コミュニケーションスキル」という考えです。そのスキルが誰かの役に立つなら、できることは何でもやろう、というスタンスで活動しています。



地域を“持続的に”盛り上げるために意識していること
「住みます芸人」は、地域を笑いで元気にするプロジェクトです。
ただ、漫才を披露するだけで本当に地域は元気になるのか、という疑問を活動の中で持つようになりました。
一時的な盛り上がりではなく、持続的に地域が元気になるには何が必要か。
その答えとして僕が辿り着いたのが、お笑いの役割を「人と人」「情報と人」「企業と人」をつなぐ潤滑油として捉えることです。
笑いを通じたコミュニケーションが、人と人の間にある摩擦を和らげ、関係性を前に進める。
そこに、住みます芸人としての存在意義があるのではないかと、ようやく実感できるようになってきました。
群馬に軸足を置いた理由と、転機となった出来事
東京・吉本には約6000人の芸人がいます。
6000分の1を目指すより、47都道府県それぞれに芸人を置く「住みます芸人」という仕組みのほうが、チャンスがあるのではと感じたのが最初のきっかけです。
住みます芸人は、M-1を目指すような“従来の芸人像”とは少し違います。その価値が明確になったのが、みどり市の市制施行10周年事業で行った小学校での漫才ワークショップでした。
特別支援学級の児童が「できない」とされていた中、当日になって「僕もやりたい」と手を挙げ、実際に舞台に立ち、台本を覚えて最後までやり切った。
それを見て、先生が涙を流して迎える姿がありました。
これは、短時間で舞台に立って帰る芸人では見ることのできない景色です。
地域に根を張り、関係性を積み重ねてきたからこそ生まれた瞬間でした。
この経験が、病院での入職者研修や、介護現場での認知症をテーマにした寸劇など、芸人の新しい価値創出へとつながっています。


最近の挑戦 ―「コミュニティ」から「街」へ
最近、特に面白さを感じているのは「街」という単位での関わりです。
価値観の合う人たちだけのコミュニティから、話が通じない人も含めた「街」になると、合意形成の難易度が一気に上がります。
PTA活動、教育現場、地域会議、商店街の空き店舗運営など、簡単ではありませんが、
コミュニケーションを諦めずに最適解を探るプロセスそのものが、今の自分にとっては非常に刺激的です。
ここでも、お笑い芸人が持つコミュニケーションスキルが、街づくりの中でどんな価値を生み出せるのかに挑戦しています。



展望を持たないという選択と、群馬へのメッセージ
正直、将来の明確な展望はありません。
時代の変化が激しく、予測が難しい中で、長期的な目標を立てることに意味を感じにくくなっています。
その代わり、「今、何ができるか」「何が良いのか」を都度考え続ける。
それも一つの生き方だと思っています。
伝えたいのは、正解のない時代だからこそ、一人ひとりが当事者として考えることの大切さです。
誰かに任せて思考停止するのは、今の時代ではとても危険だと感じています。
それを、説教ではなく、笑いというオブラートに包んで届ける。
それが社会における僕の役割だと思っています。
ゴミ問題から見える「当事者性」の欠如
ゴミを制する者は未来を制す。
SDGsも含めて、僕たちは「作る側」ばかりを見ていて、「捨てる側」を見ていない。
日本の最終処分場は、平均してあと20年しか持たないと言われています。
ゴミを出したその先を知らないから、当事者意識が生まれない。
例えば年に一度でも、ゴミの集配を経験すれば、ゴミの見え方は大きく変わるはずです。
人は言葉だけでは変われない。
体験して初めて、危機感が自分ごとになる。



教育と「経験」の重要性
だからこそ、価値観が固まる前の子ども世代に働きかけることが重要だと思っています。
大人の価値観をひっくり返すより、まだ何者でもないところに種を蒔く。
すべては「つながり」を知ることから。
ゴミの話も、教育も、街づくりも、根っこは同じだと思っています。
【プロフィール】
アンカンミンカン富所哲平
SDGs 芸人、ぐんま特使、みどり市観光大使、環境カウンセラー、脱炭素まちづくりカレッジファシリテーター、お笑いヨガリーダー、レクリエーション介護士、ぐんまの地酒大使、ほか
群馬県みどり市出身みどり市在住
妻、10歳、7歳の姉妹の父。
群馬県立桐生高校 卒業
国立千葉大学法経学部法学科 卒業。
大学卒業後に、小学校の同級生である川島と、吉本のお笑い養成学校に入り、子どもの頃からの夢であったお笑い芸人となる。
2011年5月から
「あなたの街に住みますプロジェクト」の群馬県在住の芸人として、県内の各種メディア、地域のイベント、お祭り、企業パーティーなど、鋭意活動中。
2018 年、脱温暖化をテーマにしたラジオ番組で SDGs を知り、感じた違和感をきっかけにして、そこから学びを深めていく。
「子どもたちに胸張って渡せる未来を、楽しくて優しい社会を、みんなと共に創る」をビジョンに掲げ、「正しいことも楽しくなければ伝わらない」「難しい事こそ楽しくわかりやすく」をテーマに、SDGs の講演活動や普及推進に取り組む。
【SDGs講演実績】通算 300 講演以上
2021 年 50 講演、2022 年 100 講演、2023 年 80 講演、2024 年 90
講演
企業向けの勉強会、人材育成のための研修、学校の授業、市民活動・公⺠館
活動、ワークショップ、ショッピングモールなど
小中学校、高校、大学でも SDGs 授業も多数
講演内容:気候変動、人口減少、超高齢化社会、つながりの希薄化など、変化の速い複雑な社会において様々な課題の解決が求められています。そんな中で、置かれている立場や地位、持っているお金や価値観などが異なる関係性の中で、大いなる共通のビジョン(目的地)を目指して、それぞれの立場でやれることをやれる限りやっていこうというものが SDGs の考え方です。
しかし SDGs がどれだけ優秀なシステムだとしても、それを扱う人間ひとりひとりのマインドが変わらなければ、ビジョンの実現は到底叶いません。SDGs を通して目的地に到達するためのマインドを育み、一人ひとりの望む未来に向けた行動を促します。
たとえば Google マップで目的地にたどり着くためには、現在地があって、目的地を定めて、目的地までのルートである選択肢を持つことが必要です。まずは現在地である自分を知ること。自己理解の重要性。そして、目的地である「自分はどう生きたいか」、生きがい、働きがいを考えることが重要です。選択肢を持つためには、知らないことを知ること。なぜならば、放っておいても人口が増え続ける社会から、どう頑張っても人口が減り続ける社会に変わったことで、これまでの常識が常識じゃなくなり、当たり前が当たり前じゃなくなったからです。SDGs を学ぶことは、そうした誰も正解がわからない社会の中で、一人ひとりが目指す方向を見定めるための羅針盤を手に入れることにつながるはずです。


【編集後記】
「お笑い芸人」という言葉から想像する姿と、富所哲平さんの活動は大きく違っていた。
舞台で笑わせるだけでなく、人と人の間に立ち、空気を和らげ、関係をつなぎ直す。
その姿は、芸人というより“地域の潤滑油”に近い。
学校でのワークショップ、街づくりの合意形成、ゴミや教育の話。
一見バラバラに見えるテーマの根底には、常に「当事者であるか」という問いがあった。
正解が見えない時代だからこそ、誰かに任せて思考を止めるのではなく、自分で考え、関わること。
富所さんはそれを、難しい言葉ではなく、笑いと現場を通して伝えている。
群馬という土地で、人と社会をつなぎ続けてきた14年。
笑いは娯楽で終わらせるものではなく、地域を動かす力になり得る——そう感じさせられる取材だった。