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群馬県安中市の秋間梅林で、双子の姉妹が立ち上げた「結び葉」。加工品を通して梅の魅力を伝えながら、地域や人とのつながりを大切にする活動を続けています。姉・青葉さんは加工を中心に、妹・若葉さんは営業や発信を担当し、お互いの得意分野を活かしながら事業を展開。梅の持つ可能性や地域の価値を、生活の中に自然に溶け込ませる取り組みを進めています。



- ご自身のこれまでの歩みの中で、「農業をやろう」と決意した瞬間は?
黛青葉さん
私は妹と違って、高校の時点から農業高校に進んでいたので、高校・大学とずっと農業に関わる道を選んできました。わりと早い段階から「農業」というものに興味があったんだと思います。進路を選ぶときに、小中の義務教育が終わって「高校で何を勉強しようか」と考えたとき、普通科だと将来につながらない気がして、もっと面白いことが学べる場所に行きたいなと思ったんです。いろいろ調べてみたら、自分の家の近くに農業高校があって、そこを選んだのがきっかけでした。
若葉さん
農業と一口に言っても幅が広いと思うんですけど、前職で子どもたちが林間学校に来る国立の施設に勤めていたときに、「農業を特集したい」というお話をいただいたんです。
ただ、収穫だけで終わり、育てる過程を知らないのでは意味がないとお伝えしたところ、「じゃあ1年間やりましょう」ということになり、通年で指導に関わることになりました。メインは野菜でしたが、野菜を通じて子どもたち、そして親御さんにも農業の大切さを伝える活動でした。
その後、秋間に来て果樹農業に関わるようになったのは、安中市の地域おこし協力隊として秋間梅林に携わったことがきっかけです。協力隊になる前に2年間梅林をお手伝いして、農家さんの人柄や想いに触れる中で「自分にしかできない役割は何だろう」と考えました。その答えの一つが、メディアを通して梅や地域の魅力を伝えること。前橋にいたとき以上に「この場所は緊急性が高い」と感じ、「今この場所を救わなくては」と思い、地域おこし協力隊という立場を選んだんです。
- 双子で同じ道を選んだ理由や、そのときの心境を教えてください。
青葉さん
私たちは二卵性ということもあって、得意不得意の分野やセンス、好き嫌いなど、全部同じになることはありませんでした。だからこそ二人でやっていくと、お互いに持っていないものを補い合えるんです。二人でやればWin-Winになるんじゃないかと考え、若葉と一緒にやった方が効率が良いと思って始めました。
若葉さん
私にとっては、同じ道を選んだのは偶然です。気がついたら同じ道にいた、という表現が一番しっくりきます。双子じゃない人には双子の気持ちは分からないと思うんですけど、言わなくても分かる部分があるんですよね。他の人と一緒に仕事をするのももちろん楽しいですが、意思疎通が自然にできる双子同士でやるのもいいなと思っています。
- 会社名「結び葉」にはどんな想いを込めたのですか?
青葉さん
そもそも「梅」というものを選んだ際、なかなか難しいとは思っていました。梅は全世界中に好かれている食材ではないからです。ただ、若葉と話していたのは「梅×○○」になれば強いよね。ということ。なので、梅となにかを一緒に結んで、結んでいけば、新しく面白いことができるのではないか?また、その縁を大切にしていくことで、この秋間梅林や梅というものを後世にも残していけるのではないかと思ったので、この名前をつけました。
若葉さん
六姉妹全員の名前に“葉”という文字が付いているので、社名にも“葉”を入れたいと考えていました。いろいろ調べている中で“結び”という言葉に出会い、「めっちゃいいじゃん!」となったんです。
そこから、「梅をもっと多くの人に知ってもらいたい」「梅と人とを結びたい」「梅をキーワードにいろんなものを結んでいきたい」という想いを込めて、社名を『結び葉』にしました。
- 姉妹で働いていて一番楽しいこと、逆に大変なことは?
青葉さん
生まれたときから30年以上、同じ人と一緒にいるというのはなかなかないことだと思います。赤ちゃんの頃から思春期まで、ずっと一緒に過ごしてきたので、「こういう時はこうなんだろうな」というのが自然に分かる。普通の兄弟や家族、友達ではなかなか得られない感覚です。それだけ一緒にいるからこそ、相手の気持ちも分かるし、「これは確実に有益な情報だろう」とか、「こういう仕事や人と関わるのが遣り甲斐につながるのではないか」というのも分かる。お互いを知り尽くしているからこそ、常に遣り甲斐を求めながら進められるし、いちいち詮索しなくても分かるのが楽しい部分ですね。
逆に大変なのは…365日あれば365回ケンカしていること(笑)。性格が真逆で、私は寡黙なタイプなんですが、妹は分かっていることを5倍、10倍くらい言ってくるので「面倒くさいな」と思うこともあります。でも、それ以外はやりたいことをやっているので、それもまた姉妹だからこそだと思います。
若葉さん
お互いのことがよく分かる分、正直ぶつかることはすごく多いです。ほとんど毎日のようにケンカしているんじゃないかなと思うくらい(笑)。でも、それでも姉妹だから関係が切れることはなくて、結局気になるし、助け合うのは自然とできるんですよね。
他人同士だったら「もう嫌だからやめます」と関係を終わらせてしまうこともあると思います。でも私たちの場合は「じゃあ別の人とやれば?」なんて言い合ったことも何度もありました。それでも結局すぐに「で、これどうする?」と次の話に切り替えていて、そのスピード感は姉妹ならではかなと思います。
いいことも悪いことも全部共有して、それを次につなげられる。そこは姉妹だからこそできることで、他人とは少し違う強みだと思っています。
- お二人にとって、梅や秋間梅林はどんな存在ですか?
青葉さん
私にとって梅は、本当に加工特性があって汎用性の高い食材だと思っています。その面白さに惹かれてこの世界に入りました。梅を使ったらどんなことができるんだろう、どんな商品が作れるんだろう、何と何を組み合わせたら面白いんだろう――そう考えるのが一番楽しいんです。秋間梅林は昔からある場所ですが、まだ知らない方も多い。でも知れば知るほど雰囲気が変わっていく良さがあるし、訪れる方の表情を見るのも好き。来る人も、住んでいる人も、この場所も、そして梅そのものも好きです。私にとっては、史上最大に興味があり、一番追求して研究したい素材ですね。
若葉さん
梅は自分にとって最大の武器です。「私はこれを持っています!」と言えるものなんです。誰しも「これだけは負けない」というものがあると思いますが、私にとってそれが梅。梅といえば私の顔が浮かぶ――そんな存在になることが、自分のミッションだと思っています。
私たち家族は転勤族で、これまで「故郷」と呼べる場所がありませんでした。でも安中に家を持ち、秋間梅林に関わるようになって、ここが自分の故郷になると思っています。今活動されている先輩方は60歳を超えていて、これからは私たち姉妹がこの地域を背負っていくくらいの気持ちでいます。秋間梅林は、そんな特別な場所です。
黛 青葉さん(栽培・加工担当)



- 元々は農業高校で教えていたと伺いましたが、転身のきっかけを聞かせてください。
きっかけは高校で生徒と一緒に安中市の特産品を調べていた時、安中に梅があると知ってからです。それからは生徒と一緒に梅の研究に没頭しました。その際、秋間梅林の農家さんと深く関われる機会があり、色々と梅のこと、農業のこと、秋間梅林の未来のことを話していくうちに、この秋間梅林を守る側=農家側になりたいと思ったからです。
- 自然と向き合いながら梅を育てるなかで「心が震えた」瞬間はありましたか?
梅の畑を借りて、最初に実がついて収穫し、出荷したり、お客さんが買ってくれて、いい梅だ、いい香りだって言ってくれた時ですね。初年の思いは大きいです。ちょうど、コロナ禍だったのもあって、販売に苦労したのも今は思い出です。
- 梅の加工品づくりで、自分の色が一番出ていると思う商品はどれですか?
これは間違いなく、ねり梅、梅干しチップだと思います。コツコツ、地味な作業ができないと作れない商品なので、自分だから出来る仕上がりだと思っています。
- 青葉さんにとって「農業をする意味」とは?
第一産業をやっているということで、自分自身の存在意義を感じます。「梅」というものをこの日本から無くさないためにも、一次産業を廃れさせないためにも、「農家」に誇りをもって仕事をできています。一生勉強しながら出来る仕事が農業なので、自分の性格に合っています。農業は一生勉強です。
黛 若葉さん(営業・発信担当)



- 営業や発信を担う立場として、姉の農業の姿をどう見ていますか?
姉は加工が得意で、私は逆に加工ができません。だからこそ、どういうところが大変で、完成品になるまでどんな苦労があるのかは分からない部分も多い。でもその分、私は消費者と同じ立場に立って「結び葉の商品を手に取りたい」と思っていただけるような発信をしたいと考えています。元々営業職だったので、誰かと会うと「この人と梅をどう結びつけられるか」とすぐ考えてしまう癖があるんです。そういう意味で、爪痕を残し、種をまいていくことが私の役割だと思っています。
- お客様や地域の方と接していて、「やっていて良かった」と思う瞬間は?
地域おこし協力隊という立場を選んだのは、かなり悩んだ末のことでした。協力隊にならなくても秋間梅林や安中市に関わる方法は何十通りもあったと思います。でも私が協力隊を選んだのは、正直メディア露出のことしか考えていなかったんです。自分がメディアに出ることで、秋間の梅や結び葉、秋間梅林、そして「群馬が梅の産地だ」ということをトータルで皆さんに知っていただけるんじゃないかと思いました。
実際に活動する中で、地域の人から「市内外で記事を見たよ」と声をかけられることが増えて、協力隊をやるという選択は間違っていなかったと思います。そこから今後、自分の事業につなげていくスタンスも正しかったと感じています。
- 「梅をもっと知ってほしい」と思ったきっかけは?
私は榛名に住んでいた期間が一番長いのですが、榛名は今いる安中市よりも梅の生産量や出荷量、生産者の数も桁違いに多い地域です。対して秋間は少ない。子どもの頃は梅にそこまで執着していませんでしたが、安中市に来て地域おこし協力隊になり、自分で畑を借りて梅を生産したり、農家さんの梅を販売する仕事をする中で「ここは梅の産地なんだ」と実感しました。
そして、ここで60年以上も産業を守り続けてきた先輩方がいるからこそ、今の自分たちがあるんだと気付いたときに、「だったらもっと梅を市内も市外も国外も含めて、一人でも多くの方に知ってほしい」と強く思うようになりました。
- 若葉さんにとって「結び葉で働く意味」とは?
私は「結び葉」以外にも、移住定住や地域の集落支援といった役割を持っています。今は秋間地区の農村エリアを支える集落支援組織の事務局長も務めていて、100%「結び葉」だけに関わっているわけではありません。ただ、さまざまな移住フェアやPR活動で「梅農家です」と紹介できるのは大きな強みです。実際、梅産業は天候や生産者の高齢化で厳しい状況にありますが、その中でも「加工」という形で生き残っていこうとしているのが「結び葉」。その一員であることで、「梅産業は終わらない、こういう可能性があるんだ」ということをより多くの方に伝えられるのは大きな意味だと思っています。「結び葉」という一面を持っていることは、自分自身にとってもプラスだし、皆さんに有益な情報を届けられると感じています。
お二人へ再び



- 姉妹だからこそ実現できる強みは何だと思いますか?
青葉さん
性格も得意分野も違うので、他の会社に負けないスピードで仕事ができるのが強みです。私は製造が得意で、「言われた物を、言われた以上に仕上げて提供したい」という思いがあります。ただ、商品があってもパッケージがなければ売れません。どう売っていくか、どう知ってもらうかというのは不得意な分野。一次産業あるあるで、作ることはできても売るのが下手なんです。そこをPRで支えてくれているのが妹で、だからこそ私は製造に没頭できる環境がありがたい。姉妹でここまで得意不得意がハッキリ分かれているのも珍しいと思います。お互いの弱点を補い合い、それを強みに変えられているのが双子の強さだと思います。
若葉さん
普通の会社だと社長がいて社員がいて、社長がビジョンを考えて下におろすのが一般的ですが、私たちは「共同代表」という形でやっています。対等だからこそぶつかることもありますが、リスペクトもあります。私ができないことは「できない」と認めるし、姉ができないことは無理にやらせない。トップでありながらも役割を分担できる。これが姉妹で共同代表をしている強みだと思います。
- これから「結び葉」として挑戦してみたい夢や目標は?
青葉さん
梅といえば「酸っぱい」「しょっぱい」というイメージで、好き嫌いが分かれる食材です。だからこそ、いかに多くの人に手に取っていただけるかを考えながら加工品を作っています。「梅は苦手だけど、これなら食べられる」「ジュースなら飲める」「シロップなら大丈夫」という声もあるし、逆に酸っぱい梅が大好きな人もいる。誰かのどこかに必ず刺さる商品を作り続けていきたいと思っています。
また、県内外・国内外へもっと群馬県産の梅や加工品を広めていきたいですし、今ご贔屓にしてくださっているお客様や取引先に迷惑をかけないようにするのも日々の目標です。
商品が売れなければ梅を作る意味がない。だからこそ「どう売るか」を常に考えながら商品づくりに向き合っていきたいと思います。
若葉さん
商品をお客様にお渡しする側として、「結び葉といえばこれだよね」と言われるような看板商品を作りたいです。今もリピート商品はありますが、どこにでもあるものではなく、革新的で他の加工会社も思いつかないような「ダントツの商品」。それがあることで、ギフトや敬老の日など様々な展開の大きな力になると考えています。
- 情報ぐんまの読者に向けてメッセージをお願いします。
梅はブドウやさくらんぼと違って、取ってすぐに食べられるものではありません。加工をしないと食べられないところが、結構難しいポイントだと思っています。5月〜6月が梅の収穫シーズンで、全国から青梅が並びます。完熟梅も同様です。その時期になると「梅の季節だから自然と生活の中に入ってくる」、そんな当たり前の仕組みを作っていきたいです。
梅はなくても生きていけますが、あったら生活がより楽しくなる、そんなプラスアルファを生活に取り入れてもらえる魅力を伝えていきたいと思っています。そうすることで、「梅を作ることは大変なことではない」と感じてもらい、関わってくれる人を一人でも増やしていけたらいいなと思っています。
双子姉妹の“結び葉”も待ってます🍑
🌸梅の季節、秋間梅林へ🌸
双子姉妹が育む“結び葉”の梅たちが、今年もみなさんをお迎えします。
約3万5千本の梅が咲き誇る秋間梅林。
散策しながら香りに包まれて、春の訪れを全身で感じてみませんか?
ここでしか味わえない梅スイーツや加工品もご用意しています✨
この春はぜひ、安中市・秋間梅林へ🍑
【秋間梅林にある観光案内所】



【取り扱い商品】






🌸春だけの絶景─香りと景色に癒されるひとときを🍑✨





【プロフィール】
黛 青葉(まゆずみ あおば)
群馬県高崎市出身
東京農業大学 国際食料情報学部 国際農業開発学科 卒
アウトドア用品店での小売店業を経て、農業高校の実習助手へ転職し、秋間梅林と連携して研究活動を実施。梅農家として新規就農をするために退職し、梅農家としてスタート。2022年には妹と結び葉合同会社を設立。
また同時期に加工所も併設し、より加工に力を入れている。
黛 若葉(まゆずみ わかば)
群馬県高崎市出身
高崎経済大学地域政策学部卒
広告代理店の営業職から国立教育施設で職員をしていました。
秋間梅林を拠点とした安中市地域おこし協力隊、協力隊期間中に姉と結び葉合同会社を設立。
今は梅農家をしながら安中市集落支援員として移住定住支援にも力を入れています。
結び葉合同会社
代表社員 黛 青葉・黛 若葉
〒379-0102 群馬県安中市東上秋間1020-2
HP:Home | -musubiba- (jimdosite.com)
Instagram:結び葉-musubiba-(@musubiba1222)

【編集後記】
今回の取材で印象的だったのは、姉妹ならではの息の合った連携と切り替えの速さです。毎日のように意見がぶつかることもあるそうですが、それもお互いを理解し合うからこそ。梅という食材の奥深さ、加工品づくりの工夫、地域への愛情がひとつになった「結び葉」の活動は、読者にとっても新しい発見と魅力に満ちています。梅のある生活が、少し豊かになるきっかけになるかもしれません。