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戦国の世に生きた小松姫の物語を、現代の子どもたちに届けたい。そんな思いを胸に活動を続けてきた劇団アフリカ座が、このたび沼田小学校で特別公演を行いました。小松姫ゆかりの地・沼田で、義と勇気をテーマにした舞台が子どもたちの心にどのように響いたのか。その背景と公演への想いを追いました。
アフリカ座とはどんな劇団ですか?
私どもは、2020年のコロナ禍をきっかけに配信公演を始めました。これは現在も続けております。地方にお住まいの方や、ご家庭の事情、さらにはお身体が不自由な方など、さまざまな理由で劇場に足を運べない方々から「観たい」と思っていただけることが大きな励みとなり、配信を継続している次第です。
しかしながら、2023年10月に座長・中山が倒れ、現在も病気療養中です。それでも「アフリカ座を絶やすわけにはいかない」という強い思いのもと、私たちは中山の志を継ぎ、団を守り続けるべく日々奮闘しております。



























2.なぜ沼田小学校で公演を行うことになったのですか?
もともと私たちは「真田家の忍び」と「真田家の奥方」を題材にしたお芝居を上演してきました。小松姫様に仕える忍びや豊臣家の女忍びたちを描いた女性だけの舞台で、初演は2017年。以来「小松姫様といえば沼田」という思いから、ずっと「沼田でこの作品をやりたい」と言い続けてきました。
さらに「真田十勇士」をテーマに、大坂夏の陣までの真田家を描いた作品にも取り組んでおり、「真田のご当地である沼田で公演を」という願いを強く持っていたのです。とはいえ私たちには縁もゆかりもなく、団員に群馬出身者もいません。それでも各地で「沼田でやりたい」と口にし続けていたことで、少しずつご縁が広がっていきました。
そしてある時、改めて「沼田に乗り込もう」と訪れた際に、偶然の出会いがありました。
沼田市で有名な天狗のお面を作るお店を訪ねたとき、たまたま市議会議員の相沢さんと出会い、名刺を交換することになったのです。SNSを通じてつながっていたこともあり、「私たちはずっと沼田で芝居をやりたいと思っているんです」と話したところ、そこからご縁が広がっていきました。
その後、地域の方々に支えていただきながら、「学校で公演をやってみたい」という思いを伝えると、相沢さんが「ちょうど小学校がありますよ」と提案してくださいました。沼田小学校では歴史や地域文化の授業にも力を入れていることから、「それなら授業としてもできるのでは?」という話に発展。私たちも「ぜひやらせてください」と即答しました。
つまり、この公演は偶然の出会いと、2017年から言い続けてきた「沼田でやりたい」という思いが実を結んだものなのです。
私が一番伝えたいことは、大きく二つあります。
まず一つ目は、自分たちの住んでいる地域を「再発見」してほしいということです。
子どもの頃は、地元にある歴史や出来事のことを知っていても、実感が湧かないかもしれません。私自身、山口で育ちましたが、当時はサビエル記念聖堂や公園で遊んでいただけで、それほど深く考えたことはありませんでした。ところが、大人になって改めて知ると「こんなに素敵な歴史があったんだ」と胸が熱くなるのです。
だからこそ、子どもたちにも「自分の町には何もない」と思い込まず、誇りを持ってほしい。大人になったとき、その誇りが自分を支える力になります。
二つ目は、「演劇を通して人とつながる大切さ」を学んでほしいということです。
お芝居は一人ではできません。役者同士のやり取りはもちろん、台本を書いた人の思いを読み取る力や、舞台を支える裏方の存在も欠かせません。表に立つ役が華やかに見えても、それを支える多くの人がいなければ舞台は成立しないのです。
この体験を通じて、「人とコミュニケーションをとること」「自分の意思を発信すること」「誰かの支えがあって自分がいること」に気づいてほしい。子どもたちには、表に出る役割だけでなく、支える役割にも誇りを持ってほしいと思います。
演劇は大変な部分もあります。けれど、苦労や楽しさを分かち合った思い出は、必ず一生の財産になります。きっと将来「子どもの頃に頑張った経験」が自分の背中を押してくれるはずです。
そして最後に、何より大事なのは「体験すること」です。
食べず嫌いをやめて、まずは味わってみる。やってみて初めて「自分に合うかどうか」がわかります。今の時代は、子どもたちが失敗したり、競争したりする場が少なくなっています。でも、社会に出れば、自分で意思を伝えたり、人とぶつかったり、理不尽なことに立ち向かわなければならない場面が必ずあります。だからこそ、子どものうちに「やってみる」「伝えてみる」という体験をしてほしいのです。
失敗しても構いません。言わなければ、やらなければ、何も始まらないからです。
人生は体験の積み重ねです。その一つひとつが、必ず未来につながっていきます。



【編集後記】
今回のインタビューを通じて強く感じたのは、「体験すること」と「人との関わり」が、子どもたちにとってどれほど大切かということでした。自分の住む地域に誇りを持つこと、仲間と協力して舞台を作り上げること、そして時には悔しい思いをしながらも挑戦してみること。そのすべてが、子どもたちの未来を支える力になるのだと思います。
「やってみないと分からない」「体験しないと語れない」という言葉は、大人である私たちにとっても心に響くものでした。便利で安全な時代になったからこそ、子どもたちにはあえて困難や葛藤を経験してほしい。そしてそれが「一生忘れられない思い出」となり、社会に出たときに自信や誇りとして息づいていくのだと感じました。
読者の皆さんも、自分の子ども時代を振り返りながら、このメッセージを受け取っていただければ幸いです。
